LICHT

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Interview with
KOICHI FUTATSUMATA
case-real / koichi futatsumata studio

私たちのギャラリー内装を設計していただいたCASE-REALの二俣公一さん。福岡と東京を拠点に、主に建築・インテリアを手がけるCASE-REALと、家具・プロダクトを生み出すKOICHI FUTATSUMATA STUDIOの両主宰。今回のジャーナルでは二俣さんにお話を伺いました。

中島:まず、いまのお仕事を始めたきっかけを教えてください。

二俣:学生時代から作ることや描くことが好きで、たまに寄ってた書店でマリオ・ボッタというスイスの建築家の作品集と出合ったことがきっかけです。当時は高校1年生だったと思いますが、建築家と言えば家やビルを作る人という概念があったところに、家具や舞台、そして工場など様々なもの作っている建築家がいることを初めて知り感化されたのを覚えています。

中島:お仕事のやりがいを感じるところを教えてください。

二俣:やはり何もないところに自分が想像したものが3次元になって対面出来たときです。あるいはリノベーションなど既存のものを使って表現することもあります。建物や周辺環境など与えられたピースと新たな要素、これらをどの様に構築すればハイブリットになっていくのか考えることも楽しい。また、その過程にある施主や職人らとのコミュニケーションも大切な時間です。

中島:デザインする上で大切にしていることはありますか。

二俣:建築、インテリアの場合、まず施主の目的や既存の問題(建物や土地、周辺環境など)を自然に受け入れること。自身のフィルターを通して解決していく過程で、自然と滲み出る美しさ見出すことを大切にしています。無理をせずその特徴を育ててあげることで長持ちして息が長いものになってくれると思います。だから色んな出会いによって答えが変わるのが面白いところです。一方で家具やプロダクトは少し違っていて、より自分自身がそのまま表現されていると思います。建築、インテリアの延長上にある家具やプロダクトという場合もありますが、メーカーから発表されるものはよりパーソナルで、建築よりもスケール感が身近なこともそうさせるのだと思います。ただ、アーティストではないのでプロダクトとして確かなものにしていく使命感は忘れません。

中島:影響を受けた方はいらっしゃいますか。

二俣:色んな人から受けますが、学生の頃から一貫して見続けている人物はピーター・ズントー。作品も、考え方も、人としての出で立ちも含めて好きです。特に精神的なところに注目していて、ものに対する姿勢がいいんです。

中島:最近感動したことは何でしょうか。

二俣:・・・そうですねぇ。あ、60年代の古いイギリス車のエンジンをかけたことかな。キャブレターとかアナログなところが好きで、自分の手足の延長線上にあるような感覚がするんです。車とはいえ生身のような気もしていて、熱いとか、擦れているとか、汚れているとか、いろんな手触りに親しみが湧く。コンピューター電子制御された先進的なシステムとは違った魅力ですよね。

中島:どんな時に心が満たされますか。

二俣:自転車も好きだから、古い自転車を自分で組んだりするのは好きなんですが、最近は釣り。船釣りだと少し慌ただしいんだけど波止場からぼんやり釣っている感じがいい。仕掛けや道具をよく考えて臨んでも釣果がないこともあるが、そこに対するアプローチを考えることが大切かな。自分の技量もあるんでしょうけど自然を相手に最近楽しめるようになりました。

中島:思い入れのある家具はありますか。

二俣:こういう仕事しているのに自分の生活にデザインされたものを取り入れるのが得意じゃないんですが、7〜8年前に家具コレクターのガレージセールで購入した川上元美さんのカーボンコンポジットチェアでしょうか。メープルとカーボンが積層されたベニヤを使用することで強度と軽量性を兼ね備えていて、背もたれにはゴムで専用のクッション材が作られていて、それも全てノックダウンできるところが面白いんです。毎日眺めているかな。

中島:リヒトへの想いやこだわりはありますか。

二俣:空間としては中央の柱とか斜めのウィンドウが不規則で面白いというのが第一印象。リノベーションのお話をいただいた当初からとにかくシンプルにしていきたいというテーマはあったので、複雑なラインをどう整理できるかそこをとにかく考えました。ラインというのは梁や壁、柱のことです。それらの関係性を整理することで建物の存在を感じさせずに、そこにあるプロダクトが際立って感じられます。ウィンドウから注ぐ自然光は素晴らしかったので、そこはそのまま活かしました。

中島:最後にリヒトに期待することは何ですか。

二俣:本でたくさん見ていた80年代から2000年前後までのポストモダンとされるプロダクトを紹介してもらえると嬉しいです。CASE-REALの活動を始めたのは98年なのですが、色んなデザイナーと作品を発表する機会をいただいていたこともあり、僕にとっては過去の作品というよりはリアルタイムなこと。当時はいい意味でまだ未成熟なものが多く、発展途上。現在に至るまでに完成度が高められているのだけど、それがデザインの全てではなくて、人のパワフルなエネルギーは未成熟な頃の方が感じられる気がします。いまの時代、それらが紹介される場が少ないですので、これからの世代にとって大切な存在になってくれることを期待します。

インタビューの日、彼がリヒトの扉をゆっくり開くと、まるで昨日も行動を共にしていたように世間話がスタート。福岡との距離的な要素を感じさせないニュートラルな様子が心地よく感じられて、彼の佇まいと手がけた作品の数々、それらが心の中を別々に彷徨っていたところをグッと手繰り寄せられていくような納得感があったのを覚えている。シンプルなのだけれど、空間の持つポテンシャルが引き出されたリヒトはいっそう作品の魅力を表現できていると思いますし、つい長居してしまうような心地よさはきっと二俣公一ならではのことでしょう。ぜひショップまでお越しください。

二俣公一 / 空間・プロダクトデザイナー。

福岡と東京を拠点に、「ケース・リアル」と「二俣スタジオ」の両主宰。インテリアや建築、家具・プロダクトなど多岐にわたるデザインを手がける。主な空間作品に香川県・豊島の「海のレストラン」ほか、和菓子店「鈴懸」やGINZA SIXの「CIBONE CASE」、オーストラリア発のボタニカルケアブランド「イソップ」との恊働など。プロダクトでは、イタリアの家具メーカーOPINION CIATTIからリリースした「SHOE STOOL」、アントワープのレーベル"valerie_objects"のためにデザインしたカトラリーセットほか、E&Yのコレクションedition HORIZONTALからは「IN THE SKY」など。国内外で様々なメーカーと恊働している。

http://www.casereal.com/ja/