LICHT

LICHT

梅本敏明(Studio Khii)
Plywood Objects展開催にあたり
作家へのインタビュー、企画展概要
12th June - 20th June 2021 at LICHT gallery

木工作家。
その響きから、どんな作品、そして作り手を想像するだろう。木の節や表情を生かした、有機的な手工芸品。あるいは、ノミやカンナなどの工具を片手に一点ものを仕上げていく職人。もしそんなイメージが頭に浮かんだならば、梅本敏明のアウトプットには、想像を刷新させられるかもしれない。

梅本敏明は、主に合板(=プライウッド)を素材に、家具ともオブジェとも用途が特定できない作品を発表する木工作家だ。代表作のPLYWOOD OBJECTSシリーズは直線基調の幾何学なプロポーションで構成されており、工業資材である合板には、木の表情を見出すのは難しい。

梅本のキャリアは、控えめに言って異色だ。建築への興味から美大に進学をしつつも、学生時代は並行して美容の専門学校にも通っていたという。大学中退後は、はじめ都内の美容室へ就職(!)、ヘアメイク事務所でのアシスタンスなどを経験していた。その後、ふとしたきっかけで、越前漆器のメーカーに転職し、漆器の木地作りを担当する。

「下請けじゃなくて、オリジナルでブランドをやりたいという社長に出会って。職人気質の怖いおじさんが家族でやっているような会社でしたけど、実はエットレ・ソットサスやディーター・ラムス、フリッツ・フレンクラーなんかとコラボレーションした製品の木地作りを担当しているような一面もあって、デザイン的アプローチができそうだなと思ったんです」

美容の世界から漆の世界へ。少しだけ「木工作家」に近づいてきた。梅本は言葉を続ける。

「木を扱ってましたけど、木地は漆をぬっちゃえば木目なんてわからない。あくまで、型作りですから。それはもしかたら、純粋にフォルムに興味を持つきっかけだったかもしれません」

その後、独立する過程でもうひとつ、強烈な出会いが梅本のフォルムへの向き合い方に決定的な影響を与えた。

「旅が大好きで、一年に一回は海外に行っていました。若い頃はアジアを中心に、20代後半はヨーロッパ、最近はアメリカやメキシコ…といった具合に。その中で出会ったのがカジミール・マレーヴィッチのシュプレマティズム。あそこに到達してしまうと、もうどこにも行けないじゃんって…。もともとバウハウスとかが好きだったので、スッと入ってきたんです」

梅本の現在の作風と話が、どことなく重なってきた。シュプレマティズム、ひいてはロシアの前衛芸術からは、形態だけでなく、思想的な影響も受けたと言う。

「既存のものへのアンチテーゼみたいなものに惹かれるんです。例えば現在の自動車。空力のことを考え出すと、デザイン上の「正解」が出てきてしまう。だからこそ、あえてそこには応えない、という選択肢をもたないと、全てが似たり寄ったりになってしまう」

用途を特定させない、けど使い手の解釈次第でいかようにも使用できる。梅本の作品が持つ、突き放したような、それでいておおらかな魅力の源流を、言葉の端から垣間見る。

「みんなもっと考えて生活してもいいのかなって」

静かに、だが強い言葉を、梅本は淡々と放つ。

「テーブルです。って差し出されるよりも、どう使うんだろうって考えたほうが面白いじゃないですか。DIYもそうですけど、自分で作らなくたって、使い方を考えることで暮らしはオリジナルになると思うんです」

梅本が工房を構えるのは、高野山の麓である和歌山県橋本市。2年前に、広い場所が必要になって移ってきたと言う。元家具工場だったそのだだっ広い空間の1階で制作を行い、2階を資材置き場兼、住まいとして生活している。作品はどのように作られるのだろうか。

「まず、図面を描きます。これ綺麗だな、面白いなっていうのが起点。そこから、物理的な制約を考えます。CADで図面を引いてCAMで切り出すようなことも積極的にしています。僕は手仕事がえらいとも思いませんから。極端な話、ボタンひとつで大体の形が削り上がってくるので、量産も可能です。最終的な組み上げは手でやりますが」

合板を作品の素材として選択しているのには、どんな理由があるのだろう。

「アノニマス、無国籍な感じが好きなんです。木の世界によくある銘木主義とは距離を置きたいし、広い面が取れる規格材なので、デザインする上では都合が良い。節もないから木目の表情、なんてないし。たまたまキャリア上、木を加工してきたから今も木を使っていますけど、素材はなんでもいいんです」

実は工房では、OEMも積極的に受注しているとか。

「工房での制作の中で、自分の作品が占める割合は半分くらい。某有名セレクトショップのカッティングボードや小物雑貨を作ったりもしています。自分が作ったものが意外とそのへんで手に入る、というのが結構好きなんです。自分の作風ではない、木目を生かしたものづくりだってやるし、OEMのことは隠していません」

今回のLICHTでの個展は、3年前に和歌山のnormで開催して以来となる。今回がお披露目の新シリーズCANVAS COLLECTIONは、どのような思いから生まれたものなのだろう。

「画家が使うキャンバスそのものを作品にしてみたいなと思ったんです。床置きのものばかり作ってきたから、平面作品を作るとしたらどうなるかなとも思って。麻でできたキャンバスを貼って、絵を描くようにアクリル絵の具で着色しています。色は黄色、グレー、黒、薄いピンクなど。空間にあるといいな、と自分が思う色を塗っています」

PLYWOOD OBJECTSシリーズのことを話していた際の「みんなもっと考えて….」のフレーズがふと頭をよぎる。マレーヴィッチとの出会いから研ぎ澄まされてきた既存の枠組みへのまなざしも、ついにキャンバスそのものを作品化する地点まで到達した、ということか。

「LICHTとのご縁は、2年前にHIKEから商品の取り扱いをしたいと連絡をいただいたことがきっかけ。漆の会社に勤めていたときにHIKEのフレームを受注して作っていた記憶があったので、嬉しかったです。自分の作品が一堂に見られる場所や機会はあまりないので、気になった方はぜひ今回の個展に足を運んでほしいです」

「木工作家」梅本敏明の作品を目にすれば、密かに作品に滲ませている、説明過多な現代のプロダクトへのアンチテーゼを、確かに感じることができる。それを私たちは心地いいと思えるか、あるいは、突き放されると感じるだろうか。



梅本敏明(Studio Khii)Plywood Objects展

この度、デザインギャラリー LICHTでは、用途を特定させない力強い造形を制作する木工作家、梅本敏明 (Studio Khii)の作品を展示販売します。

構造材に使われることの多いシナ合板を、独自の感性で今までにないユニークな形にアレンジする梅本 。「平面と曲面で構成された規則的な立体。家具のようで彫刻のような小さな建築」とは梅本本人の談。天地左右・使用用途も全て使い手に委ねられたユニークなオブジェクトは、確かな木工技術に裏打ちされており、椅子やテーブルなど、家具としての使用を成立させています。

この度展示販売されるオブジェクトは 、シナ合板を組み合わせた立体作品10点( 新作含む)のほか、梅本にとって初となる平面作品も登場。こちらは針葉樹合板生地にキャンバスを貼り、アクリルで着色したもので、「画家が使うキャンバスそのものを作品にできないか」と梅 本が考えて生まれたオブジェクトです。壁に飾る、あるいは空間に平置きするなど 、自由な解釈によって新しい用途を獲得していきます。さらに会期中は、ニューヨークやロンドンの「DOVER STREET MARKET」でも取り扱われるなど、世界的に評価されている構造材を用いたプラ イウッドトレイも同時に展示販売いたします。

最小限な造形、端正な仕上げ、繊細な色彩感覚が持つ確かな魅力を、ぜひ会場でご覧になってください。

会期 : 2021年6月12日(土)-6月20日(日) 13:00-18:00  ※会期中は毎日営業
会場 : LICHT  東京都目黒区青葉台 3-18-10 2F  03 6452 5840

梅本敏明 1977生まれ、43歳。和歌山県紀伊半島に工房を構え、ハンドメイドとマシンメイドを組み合わせたユニーク な手法で家具やオブジェクトを製作する木工作家。建築構造材であるプライウッドを使った作品など、素材の特徴 を熟知した彼ならではの意外性のある作品を生み出す。作品は国内のみでなく、ニューヨークやロンドンの「DOVER STREET MARKET」でも取り扱われている。

取材、テキスト / 井手裕介 / 編集者

1992年生まれ。雑誌『Casa BRUTUS』編集部所属。

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