LICHT

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TAKAHIRO TSUCHIDA
DESIGN COLUMN Vol.1
Jasper Morrison - Punkt. MP01

プロダクトデザイナーのジャスパー・モリソンは、スイスの「Punkt.」のためにいくつかの製品をデザインしている。「MP01」は2015年に発表された携帯電話で、スマートフォンが世界的の主流になっている昨今、あまり目にしなくなった電話とショートメールの機能しかもたない機種。GSM方式なので日本では使えないけれど、ものとしての不思議な魅力を感じてしまい購入に至った。2017年、ロンドンのジャスパー・モリソン・ショップでのことだった。

すみずみまで、よくできている。これくらいの機能の携帯電話が主流だった頃は、新しい機種がすぐに登場するのが前提で、製造工程も含めてしっかりとデザインされたものが少なかったのかもしれない。「MP01」の外装部はプロフェッショナル用カメラと同じ工場で製造されているといい、素材感やディテールに隙がない。手に持った感覚の心地よさは、忘れていた何かを思い出させる。ボタンの感触や、落としても割れないディスプレイも、普通に安心感がある。この感触と比べると、現在のスマートフォンの形、重さ、寸法などがあくまで性能を優先して発想されているのがわかる。

もうひとつ興味深いのは、デザインがテクノロジーと人の間を取り持つというテーマが、この携帯電話に反映されていること。テクノロジーは常に進歩しつづけ、歩みを止めることも退行することもなく、さらに進歩を加速しているように思える。一方で人間は、進歩に対応できることもあれば、できないこともあり、できてもしたくないこともある。「MP01」は、デザインが人間の立場からテクノロジーを捉えて、適切な関係をつくり出す可能性を明らかにする。それはずっと昔から、新しい技術や素材などが生まれるたびに、デザインが担ってきた役割でもあった。

しかし一方で、「MP01」のような携帯電話が普及するのはたぶん難しい。スマートフォンをやめてこれだけをもつ勇気はないし、スマートフォンと並行してもってもあまり意味がない。タブレットと一緒にもつという役割分担はありかもしれないが、それを1台で済ますのがスマートフォンだろう。だからといって、「MP01」のコンセプトを部分的に取り入れたスマートフォンというのも考えにくい。それが定着するならiPhone5Cの路線がもっと定着したはずだ。現在のスマートフォンのあり方に多少でもストレスを感じる人々が、少数派だととは思えないけれど。「MP01」がもたらす気づきは、こんなふうに人間の矛盾と結びついている。この点については、いつかジャスパー・モリソン本人に尋ねてみたい。

土田貴宏 / ライター、デザインジャーナリスト

1970年北海道生まれ。2001年からフリーランスで活動。国内外での取材やリサーチをもとに、デザイン誌をはじめ各種媒体に寄稿している。

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