LICHT

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Interview with
KOICHI FUTATSUMATA
About PYOD
koichi futatsumata studio / case-real

LICHTによるEDITIONシリーズ最初の作品として、デザイナーの二俣公一による「PYOD」が発表されました。独自の発想から生まれた座面の構造が、ミニマリズムを感じさせる存在感の中に光る、彼らしい美しさと意外性をそなえたオブジェクトです。二俣さんに、この作品についての背景や思いを聞きました。

「PYOD」はどんな経緯でデザインされたのでしょうか。

二俣:ホームセンターで入手できる材料を使ってDIYでつくれるプロダクトをデザインし、展示するという企画が、2016年にDESIGN小石川という場所でありました。そのためにホームセンターの売り場でベニヤ板を見て、以前から考えていた構造を試してみたのです。ベニヤは薄い板を積層していますが、その中間の板を抜いた構造を擬似的につくって座面に取り入れると、座った時にしなるのが機能としてもおもしろい。ホームセンターで材料をカットしてもらい、半日ほどかけて自分で組み立てました。それが「PYOD」の原型になっています。

その時のP(l)y(w)o(o)dと、「PYOD」の違いを教えてください。

二俣:構造はほとんど変わっていません。素材は、以前は最も一般的なランバーコアでしたが、「PYOD」は共芯のシナベニヤを使い、オイルフィニッシュを施しています。またサイズはわずかに見直しました。室内で使うのにちょうどよく、またサブロク板(180cm×90cm)から効率よく5脚分のパーツが取れるように、一回りコンパクトになっています。ジョイントはホゾ組も検討しましたが、あまり凝ると座面のおもしろさが削がれてしまうためボルト留めにしました。厚さ4mmの3枚の板で座面を構成した点は変わりません。この板は、これより厚いとうまくしならず、薄いと強度が足りないのです。

座面は特徴的ですが、全体としてはとてもミニマルなオブジェクトですね。

二俣:パッと見ただけでは、あまり特徴に気づいてもらえないかもしれません。ただの積層ベニヤのオブジェクトで、マックス・ビルのスツール(ウルムスツール)みたいだな、というふうに。しかし、それもひとつの狙いで、だからこそ座面の仕組みに気づいた時に驚きがあり、おもしろさがある。あからさまに新しいのではなく、もう少し奥まで入っていくと、ようやく新しさに気づくわけです。

デザインにおいてミニマリズムを意識していますか。

二俣:ミニマリズムを目的にはしていませんが、結果的にそうありたいとは思っています。目的にしてしまうと、必要なものまで削ることになりかねません。僕が作風のミニマルさに惹かれるデザイナーは、その上で独自の造形感があるように思います。倉俣史朗にもコンスタンティン・グルチッチにもそんな作品がありますが、ただシンプルなのではなく、そこに意志を感じます。機能も何もかも最小限まで突き詰めて、完成した形に達しているような感覚です。

二俣さんは、今までいろいろなスツールをデザインしていますね。

二俣:スツールは、思いついたことを形にしやすいんです。背もたれがつく椅子は一気にハードルが上がります。腰掛けられるだけでスツールになるので、制約が少なく、自分のスタジオですぐにつくれて、ボリューム感もちょうどいい。その過程で、発想や造形感などデザインのベースになるものを自由に試すことができます。だから意識していないうちに、いつの間にか増えてきました。

それはマスプロダクトのデザインとは対照的ですね。

二俣:メーカー相手のプロダクトでは、すぐれた開発者と一緒にいろいろなことに配慮しながら、1年以上かけて完成を目指していきます。それはそれで楽しいし、とても勉強になります。ただし、おもしろいけれど売れないかもしれないものを、製品にする家具メーカーは今はありません。またマスプロダクトでは、3年後や5年後でも違和感がないか、けっこうじっくり検証するんです。一方、自分でスツールをつくる時は、アイデアがストレートに形になるぶん、予定調和でないパワフルなものができることもあります。「PYOD」も、座面の構造やベニヤの使い方はずっと考えてきたことですが、そのアイデアを即興的に形にしたようなところがあります。

「PYOD」のようなリミテッドエディションに、どんな可能性を感じますか。

二俣:僕が2013年に発表した「シュースツール」は、最初は親しい友人のためにつくったもので、それを見て喜ぶ人の顔が思い浮かぶようなデザインでしたが、そこから広がっていって海外で製品化されました。とても身近なところで考えた表現が、そうやって受け入れられることもあるんです。多くのデザイナーは、自分でいろんな実験や試作をしていて、それは表には出ないけれど、そっちのほうが個性や性格がギュッと凝縮されるているし、個人の素の部分が表れます。そんなものをスポットで展示して、買ってもらえる機会があるというのは、すごく意義のあることだと思います。


聞き手:土田貴宏



EDITON Vol.1 PYOD EXHIBION

DATE
11月23日(土)− 12月1日(日)12:00−18:00(火曜、水曜定休)

RECEPTION
11 月22日(金) 16:00−20:00
彗星菓子手製所のお菓子とお飲み物をご用意してお待ちしております。(どなたでもご参加可)
18: 00 −19: 00 二俣公一氏、倉本仁氏(プロダクトデザイナー)によるトークイベントを行います。

PLACE
LICHT 東京都目黒区青葉台3-18-10 カーサ青葉台2F Tel 03 6452 5840

PYOD PRODUCT INFO
SIZE : W365 D220 H470, PRICE : ¥75.000+tax, 20台限定

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二俣公一 / 空間・プロダクトデザイナー

福岡と東京を拠点に空間デザインを軸とする「ケース・リアル」と、プロダクトデザインに特化する「二俣スタジオ」両主宰。インテリア・建築から家具・プロダクトに至るまで、多岐に渡るデザインを手がける。主な空間作品に香川県の豊島にある「海のレストラン」ほか、和菓子店「鈴懸」やオーストラリア発のボタニカルケアブランド「イソップ」との恊働など。プロダクトでは、アントワープのレーベル"valerie_objects" のためにデザインしたカトラリーセットや、イタリアの家具メーカーOPINION CIATTI からリリースした「SHOE STOOL」、国内では E&Y から「 IN THE SKY」「HAMMOCK」など。また真空管アンプ「22」はサンフランシスコ近代美術館のパーマネントコレクションになっている。最近ではフィンランドのインテリアブランドArtek より「KIULU BENCH (キウル ベンチ)」をリリースするなど、国内外の様々なブランドと恊働している。

http://www.casereal.com/ja/

土田貴宏 / ライター、デザインジャーナリスト

1970年北海道生まれ。2001年からフリーランスで活動。国内外での取材やリサーチをもとに、デザイン誌をはじめ各種媒体に寄稿している。

twitter.com/th_bbc