LICHT

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TAKAHIRO TSUCHIDA
DESIGN COLUMN VOL.07
In Periferia - Konstantin Grcic

「FILED UNDER」というドイツのブランドが、2011年から翌年にかけて、デザイナーやアーティストを起用した15枚ほどのシルクスカーフを発表している。Fernando and Humberto Campana、Ayzit Bostan、そしてFILED UNDER主宰者のひとりであるFlorian Böhmらとともに、そのスカーフをデザインしたのがKonstantin Grcicだった。ただし、事務所の名前をKonstantin Grcic Industrial Designとするほど工業的プロダクトにひたむきな彼は、絵柄や色彩を巧みに用いるタイプでないことを自認している。つまり「In Periferia」と名付けられたそのスカーフは、彼にとって余技のようなものだった。しかし余技にこそ作者の人間味が現れることがある。

「In Periferia」のモチーフになったタイヤの写真は、グルチッチ自身が撮影したものだ。イタリアの建築家 Pier Luigi Nerviの設計により1945年に完成した建物「Padiglione alla Magliana」で、駐車場に面したファサードを守るため置かれた使用済みのタイヤだという。Pier Luigi Nerviはフェロセメント(金網を芯に入れた強化コンクリートの板)の曲面を構造体とする建築で知られ、ローマにあるPadiglione alla Maglianaは彼がこの手法を初めて用いた倉庫のような建物。2017年にはグルチッチの家具の展示が行われたこともある。その大胆にして無垢な近代建築の佇まいと、建築家の意図と関係なく無造作に置かれた古タイヤとの対比に、彼は何かを感じたに違いない。ただし、そんな文脈はスカーフを目にしただけでは伝わらない。身につけるものには不似合いに見えるモチーフを、なぜ彼は選んだのだろう。

今、この瞬間も世界中を走っている自動車のほぼすべてには、4本かそれ以上の黒いタイヤがついている。 過去100年間で自動車はテクノロジーの塊へと進歩したが、黒いゴムのタイヤの見た目、素材、大まかな構造はあまり変わっていないようだ。世の中にありふれているものの大半は、完成された仕組みや機能をそなえていても、その普通さゆえにあえて注目されない傾向がある。タイヤをテーマにしたアート、文学、映画が一体いくつ思いつくだろう。現代になくてはならない、膨大な人やものの動きを支え続けているオブジェクトであるにもかかわらず。

「In Periferia」は、そんなタイヤというものへのグルチッチからのオマージュである。彼は写真を90度ずつ角度を変えてレイアウトし、古タイヤが現役の頃さながらに回転するように見える効果を与えた。黒い幾何学形態は、寡黙で、根源的で、アイコニックで、つまりは彼の作風と一致するところがある。工業的につくられて慎み深く存在しているものへの深い憧憬と愛着を、このスカーフはあらためて明らかにしている。

土田貴宏 / ライター、デザインジャーナリスト

1970年北海道生まれ。2001年からフリーランスで活動。国内外での取材やリサーチをもとに、デザイン誌をはじめ各種媒体に寄稿している。

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